胃もたれ・膨満感(ぼうまんかん)
1. 胃もたれ・膨満感(ぼうまんかん)とは
最終更新日:2025年4月29日
胃が重い、むかつく、消化不良など、いわゆる上腹部の不快感を「胃もたれ」と呼ばれることがあります。胃もたれの定義は、ガイドラインでも明確な定義はなく、「痛みではない、心窩部を中心とする不快な症状」といったところでしょうか?特に、張った感じ、膨らんでいる感じを「膨満感」と表現することもあります。これらはしばしば、機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)に含まれる症候群の一部とされます。
2.頻度は?
世界的に未検査ディスペプシア(Uninvestigated Dyspepsia)の有病率は約21%と報告されていますが、国ごとに大きな差があり,1.8%から57%の範囲でばらつきが見られます。アジアでは5-30%,欧米では10-40%とされ、地域差が明らかになっています。日本でも、標準人口におけるFDの有病率は約10%前後と推測されています。また、女性、喫煙者、非ステロイド性抑症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)使用者、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori:H. pylori)感染者で有病率がやや高い傾向が認められています。
3.原因となる疾患(鉼別すべき疾患)
- 消化性潰瘍(胃潰瘍/十二指腸潰瘍)
- 胃がんを始めとする上部消化管悪性腫瘍
- 胆石症、胆囊炎
- 慢性膵炎
- 胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease:GERD)
- 機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)
- 過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)
4.検査方法
症状の発現時期、持続期間、食事との関連、体重変化、出血の有無、家族歴などを詳しく聞きます。
内視鏡検査(上部消化管内視鏡)が推奨されます。特に以下に該当する方は積極的に実施すべきとされています。:
- 45歳以上の初発症状
- アラームサインの存在
(アラームサインの例:意図しない体重減少、貧血・鉄欠乏性貧血、消化管出血の兆候、持続的または反復する嘔吐、嚥下困難/嚥下痛、持続性・難治性の腹痛、触知可能な腹部腫瘤、リンパ節腫大、黄疸(おうだん)、上部消化管悪性腫瘍の既往歴・家族歴、高齢発症、不明熱・全身倦怠感(原因不明の発熱や著しい体力低下を伴う場合) - 初期治療への反応不良
血液検査、ピロリ菌検査、腹部超音波検査も補助的に行います。
5.治療方法
症状の原因となる疾患が見つかったときは、もちろんそちらの治療を優先しますが、器質的疾病が除外された後は、症状に対応した階段的アプローチを行います。
一次治療:
- 胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬:Proton Pump Inhibitor:PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬(Histamine H2 Receptor Antagonist:H2RA)
二次治療:
- 消化管運動機能改善薬(プロキネティクス)
三次治療:
- 抑うつ薬や抑不安薬(中枢神経系作用薬)
非薬物療法:
- 食事療法(少量頻回食,脂肪制限,カフェイン、香辛料制限)
- 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)や催眠療法(Hypnotherapy)
患者さんごとの症状パターンや背景因子を考慮し、個別化した治療方針を立てることが重要になります。
参考文献
- 日本消化器病学会 ed. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版). 2021.
- Oshima T. Functional dyspepsia: Current understanding and future perspective. Digestion 2024;105:26–33.
- Ford AC, Marwaha A, Sood R, et al. Global prevalence of, and risk factors for, uninvestigated dyspepsia: a meta-analysis. Gut 2015;64:1049–1057.
注意:本文の内容には細心の注意を払っておりますが、あくまで参考情報としてご活用ください。本内容をきっかけとした自己判断等により生じた体調悪化などの不利益の責任を負うものではありません。必ず、主治医・かかりつけ医等、医師の診察により自身の病状を判断いただき、適切な検査・治療方針を決定してください。