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過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群とは

消化管に明らかな器質的異常が認められないにもかかわらず、慢性的な腹痛や不快感、便通異常(下痢、便秘、またはその両方)が繰り返される機能性消化管疾患です。近年の研究では、脳と腸の相互作用、いわゆる「脳腸相関」の異常がIBSの発症に関与しているとされており、ストレスや精神的な要因が重要な要素と考えられています。
また、腸内細菌の異常や食事の影響も病態に関与するとされています。

Rome IV基準に基づき、IBSは4つのサブタイプに分類されます

  • 便秘型(IBS-C):便秘が主症状
  • 下痢型(IBS-D):下痢が主症状
  • 混合型(IBS-M):便秘と下痢が交互に現れる
  • 分類不能型(IBS-U):上記に分類されない

日本におけるIBSの有病率は約2.2%と報告されています。特に消化器科の外来を受診する患者の中では30%近くがIBSを呈しているとのデータもあり、消化器疾患の中でも頻度が高いです。日本人のIBS患者は、日常生活や仕事に大きな支障をきたすことが多く、特にストレスや生活習慣の影響を強く受けます。日本では、精神的なストレスがIBSの症状悪化に大きく寄与していることが特徴的です。また、食文化の違いから、食事療法もIBSの管理において重要な要素となっています。

世界的には、IBSの有病率は4.1%から10.1%とされ、国によって大きな差があります。欧米ではIBSの罹患率が高く、特に女性に多く見られます。例えば、アメリカ合衆国では約10%の成人がIBSを抱えているとされ、英国でも同様の数値が報告されています。生活の質(QOL)に対するIBSの影響が大きく、IBSの症状による仕事や学業のパフォーマンス低下が顕著で、社会的、経済的コストも高く、医療費の増加や労働生産性の低下が問題視されています。

食生活や腸内フローラ(腸内細菌叢)の違いも、IBSの発症や症状の出現に影響を与えているとされています。食事に含まれる乳糖やグルテンなどが、IBS患者に悪影響を及ぼす場合があり、欧米では低FODMAP食(発酵性オリゴ糖・二糖・単糖およびポリオールを控えた食事)が治療に用いられることが一般的です。

日本では、欧米に比べてIBSの有病率はやや低いのは、日本では発酵食品や魚介類を多く摂取する傾向があり、食文化の違いが腸内細菌叢の維持に寄与している可能性があります。一方、欧米では高脂肪・高糖分の食事が多く、これがIBS発症リスクを高めている可能性があります。

過敏性腸症候群(IBS)の原因

IBSの原因は多岐にわたり、脳と腸の相互作用(脳腸相関)の異常が主要な役割を果たしています。ストレス、食生活、腸内細菌のバランスの崩れ、腸管運動の異常、遺伝的要因、内臓の知覚過敏、免疫系の異常などが関連しています。感染後にIBSが発症することもあり、これを「感染後IBS(PI-IBS)」と呼びます。

ストレスとIBSの関係

過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスが大きく関わっていることが知られています。ストレスを感じると、私たちの体は腸の働きを調整する神経やホルモンに影響を与え、これが腸の動きを速くしたり、逆に遅くしたりします。その結果、下痢や便秘が引き起こされることがあります。また、ストレスは腸の感覚を過敏にするため、通常では感じない痛みや不快感を強く感じることもあります。

腸内細菌の役割

私たちの腸には、数え切れないほどの細菌が住んでいます。この「腸内細菌」は、消化の手助けをするだけでなく、免疫力を高めたり、腸の健康を守ったりしています。最近の研究では、IBSの患者さんでは、この腸内細菌のバランスが崩れていることがわかっています。特定の細菌が多すぎたり少なすぎたりすることで、腸に炎症が起こったり、腸の動きが変わったりして、IBSの症状が悪化することがあります。

腸内細菌は、腸だけでなく脳にも影響を与えることがあり、このことから、腸内細菌の調整がIBSの治療に役立つ可能性があります。たとえば、プロバイオティクス(ヨーグルトなどに含まれる有益な菌)を摂ることで、症状が改善することが期待されています。

腸と脳のつながり(腸脳相関)

腸と脳は、密接に連携してお互いに影響を与え合っています。この「腸脳相関」と呼ばれるつながりは、神経やホルモンを通じて、腸の動きや感覚を調整しています。たとえば、ストレスを感じると脳が腸に信号を送り、腸の動きが変わることがあります。逆に、腸が異常な状態にあると、その情報が脳に伝わり、不安感や気分の落ち込みにつながることもあります。

IBSの患者さんでは、この腸と脳のコミュニケーションがうまくいっていないため、精神的なストレスが腸の症状に強く影響するのです。また、腸に炎症がある場合、その情報が脳に伝わり、さらに症状を悪化させることがあります。

IBSは、ストレス、腸内細菌のバランス、そして腸と脳のつながりが複雑に絡み合っている疾患です。ストレスが腸の動きや感覚に影響を与え、腸内細菌のバランスが崩れると腸の健康が損なわれます。さらに、腸と脳の相互作用が異常になることで、症状がさらに悪化します。そのため、IBSの治療では、ストレス管理や腸内細菌の調整、そして腸脳相関を整えることが大切です。

過敏性腸症候群(IBS)の症状

IBSの主な症状は、腹痛や腹部不快感、および便通異常です。これらの症状は、少なくとも3か月以上続くことが特徴で、症状の程度やタイプは個人によって大きく異なります。IBSには大きく分けて便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)、分類不能型(IBS-U)の4つのタイプが存在します。それぞれのタイプは、主に便の状態や頻度に基づいて分類されます。

1.腹痛・腹部不快感

IBS患者の多くは、繰り返される腹痛や腹部膨満感を訴えます。この痛みは、通常、排便によって軽減されることが多く、痛みの強さや部位は人によって異なります。腹部膨満感はガスが溜まることによって引き起こされ、特に食事の後に症状が悪化することがあります。

2.便通異常

便通異常は、IBSの症状の中心であり、ブリストル糞便スケール(BSFS)が便の形状を評価するのに用いられます。このスケールは、便の硬さや形状を7段階で分類し、IBSのタイプを判断するのに役立ちます。

タイプ1–2(硬い便・便秘)
これに該当する場合、IBS-C(便秘型)と診断されます。タイプ1は「小さな硬い粒状の便」、タイプ2は「こぶ状で硬い便」で、排便に時間がかかり、不快感を伴うことが多いです。
タイプ3–4(正常な便)
タイプ3は「割れ目のあるソーセージ状の便」、タイプ4は「滑らかなソーセージ状の便」で、これは理想的な便とされています。
タイプ5–7(軟便・下痢)
タイプ5は「やわらかい小さな塊の便」、タイプ6は「形の崩れた半固形便」、タイプ7は「水様便」であり、IBS-D(下痢型)と診断されることがあります。下痢型の患者は急激な便意を感じることが多く、トイレに急ぐ必要があるため、社会生活に大きな影響を与えることがあります。

3.混合型IBS(IBS-M)

混合型IBSは、便秘と下痢の両方が交互に現れるのが特徴です。患者は、硬い便と水様便が不規則に入れ替わるため、症状が予測しにくく、生活の質に大きな影響を与えます。

4.その他の症状

IBSの患者では、腹痛や便通異常に加えて、疲労感や吐き気、さらには頭痛などの全身症状を訴えることもあります。これらの症状は、IBSがただの消化管の問題にとどまらず、全身の健康にも影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。

過敏性腸症候群(IBS)の診断

IBSの診断には、他の器質的疾患を除外することが重要です。便潜血検査や血液検査、大腸内視鏡検査が行われることがありますが、特に50歳以上で新たに症状が出現した場合や、体重減少や血便といった警戒症状がある場合には、大腸内視鏡検査が推奨されます。

診断基準

過敏性腸症候群(IBS)の診断は、主に「Rome IV基準」という国際的な診断基準に基づいて行われます。この基準では、次のような症状が該当します。

  1. 繰り返される腹痛が少なくとも3か月間、週に1回以上起こる。
  2. 腹痛が次の2つ以上に関連している
    • 排便(お通じ)によって痛みが和らぐ、または悪化する。
    • 便の回数が変わる。
    • 便の形や硬さが変わる。

これらの症状が、少なくとも6か月前から存在している必要があります。
IBSは、便秘が中心の「便秘型(IBS-C)」、下痢が中心の「下痢型(IBS-D)」、便秘と下痢が交互に現れる「混合型(IBS-M)」、そしてそれ以外の「分類不能型(IBS-U)」に分類されます。

診断に用いる検査方法

IBSの診断では、他の病気を除外するためにいくつかの検査が行われます。IBSは器質的な異常がないため、これらの検査は主に「除外診断」と呼ばれる、他の病気を排除するためのものです。

基本的な検査

血液検査

血液を調べて、体に炎症や感染がないかを確認します。たとえば、赤血球や白血球の数、炎症の指標(CRPなど)を調べます。

便検査

便の中に炎症のサインがあるかどうかを調べ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)を除外します。

大腸内視鏡検査

50歳以上や、体重減少、貧血、血便といった警戒すべき症状がある場合には、大腸内視鏡検査が行われます。この検査で、大腸癌や炎症性腸疾患などの他の病気を確認します。

特定の検査

セリアック病(小麦製品に対するアレルギー)の検査

特に下痢型IBSの患者さんでは、小麦に対する免疫反応を調べるための血液検査が行われることがあります。

胆汁酸吸収不良(BAD)の検査

下痢が中心のIBSの場合、胆汁酸の異常が疑われる場合には、胆汁酸の検査が行われることがあります。

その他の検査

呼気テスト

乳糖不耐症や小腸内細菌の異常(小腸内細菌過剰増殖症:SIBO)が原因となっていないかを確認するために、呼気テストが行われることがあります。

病態解析に用いる方法

IBSの症状はさまざまな原因が絡み合って起こるため、病態を解析するためのいくつかの方法があります。

脳と腸の関係を見る検査

機能的脳画像(fMRI)を使って、腸に刺激を与えたときの脳の反応を調べることがあります。これにより、IBSの患者さんでは脳がどのように働いているかを調べることができます。

腸内細菌のバランスを調べる検査

最近の研究では、腸内細菌のバランスがIBSに関係していることがわかっています。糞便を調べて、腸内細菌のバランスがどうなっているかを確認することで、症状の原因を探ることができます。

過敏性腸症候群(IBS)の治療

IBSの治療には、薬物療法と非薬物療法があり、患者ごとに異なる治療アプローチが取られます。生活習慣の改善や食事療法が基本となり、下痢型IBSには抗菌薬や消化管運動調節薬、便秘型IBSには下剤や腸内分泌促進剤が使用されます。また、抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)も有効です。

薬物療法

IBSの薬物療法は、症状に応じた治療が基本です。便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)のタイプに応じて、使用される薬剤が異なります。

1.便秘型IBS(IBS-C)

便秘型IBSの治療に対して、以下の薬剤が使用されます。

リナクロチド(GC-C受容体アゴニスト)

腸内で水分の分泌を促し、便通を改善する作用があります。日本では、リナクロチドが便秘型IBSに対して使用されており、その効果と安全性が確認されています。

ルビプロストン(ClC-2賦活薬)

腸粘膜の水分分泌を促し、便通を改善しますが、日本での保険適用は慢性便秘症に限られており、IBSに対しては保険適用外となっています。

2.下痢型IBS(IBS-D)

下痢型IBSに対しては、以下の薬剤が推奨されています。

ラモセトロン(5-HT3受容体拮抗薬)

下痢型IBSに対して有効で、便意の切迫感や腹痛を軽減します。ラモセトロンは日本で特に男性患者に対して有効性が確認されており、女性に対しても低用量で有効性が示されています。

プロバイオティクス

腸内環境を改善し、腸内細菌のバランスを調整することで、下痢や腹痛の緩和が期待されています。

3.混合型IBS(IBS-M)

混合型IBSでは、便秘と下痢が交互に現れるため、便秘型や下痢型に使用する薬剤を症状に応じて併用します。

4.その他の薬剤

消化管運動機能調節薬(トリメブチン)

腸の運動を調整し、腹痛や不快感を軽減します。トリメブチンは、下痢や便秘の両方に対応できる二重の作用を持ち、特に日本では広く使用されています。

抗うつ薬および抗不安薬

うつ症状や不安がIBSの症状に関連している場合、これらの薬剤が使用され、特に腹痛や不快感の軽減に有効です。抗うつ薬は、低用量から使用を開始します。

食事療法

低FODMAP食

発酵性の糖類(FODMAP)を制限することで、ガスの発生や腹部膨満感を軽減する効果が期待されています。FODMAPには、特定の果物、野菜、小麦製品などが含まれます。

プロバイオティクス

腸内の善玉菌を増やすことで、腸内環境を整え、症状の緩和が期待されています。特定の菌株に関しては研究が進んでおり、特に腹痛や不快感の改善に効果があるとされています。

心理療法

認知行動療法(CBT)

IBSに特化した認知行動療法が、IBS患者の症状改善に有効であることが示されています。患者が持つストレスや不安に対処し、腸と脳の相互作用を改善します。

腸に焦点を当てた催眠療法

腸の症状に対する催眠療法も、IBSの治療に効果があるとされています。特に、薬物療法が効果を示さなかった場合に推奨されることがあります。
これらの治療は、心療内科やメンタルクリニックと協力して診療にあたります。

過敏性腸症候群(IBS)の予後

IBSは慢性的な疾患で、完全な治癒が難しい場合もありますが、適切な治療と管理により症状をコントロールし、生活の質を向上させることができます。治療によって長期的な症状の緩和が期待されるものの、ストレスや食生活などの要因により、再発することも少なくありません。

参考文献

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  2. Chang L, Sultan S, Lembo A, et al. AGA clinical practice guideline on the pharmacological management of irritable bowel syndrome with constipation. Gastroenterology 2022;163:118–136.
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  5. Lacy BE, Pimentel M, Brenner DM, et al. ACG clinical guideline: Management of irritable bowel syndrome: Management of irritable bowel syndrome. Am J Gastroenterol 2021;116:17–44.

注意:本文の内容には細心の注意を払っておりますが、あくまで参考情報としてご活用ください。本内容をきっかけとした自己判断等により生じた体調悪化などの不利益の責任を負うものではありません。必ず、主治医・かかりつけ医等、医師の診察により自身の病状を判断いただき、適切な検査・治療方針を決定してください。

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三井 啓吾
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