腹痛・心窩部痛(胃痛)
腹痛・心窩部痛(胃痛)
について
腹痛・心窩部痛(しんかぶつう)(胃痛)とは

腹痛とは、腹部に感じる痛みを指します。
発症から7日以内の痛みは「急性腹痛」と呼ばれ、救急外来を受診する主な原因の一つとなっています。腹痛の原因は多岐にわたり、150種類以上あると言われています。腹腔内(ふくくうない:お腹のなか)の病変だけでなく、心疾患や肺疾患などの胸部疾患、代謝障害(例:糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症)、精神的要因なども腹痛の背景に存在することがあり、単純な評価は許されず、詳細な問診と身体診察が必要です。
なかでも、左右の肋骨弓(肋骨「あばらぼね」の下端の弓状の部分)の間から臍(へそ)上部にかけての中央部に生じる痛みを「心窩部痛(しんかぶつう)」と呼びます。一般に「胃痛(いつう)」と呼ばれますが、適切な医学用語ではないので病院ではほとんど使用されません。原因も、胃炎、胃潰瘍といった胃に関係する病気だけでなく、胆石症、胆嚢炎、急性膵炎、虫垂炎、心筋梗塞などがあり、胃の病気と早合点するのは大変危険です。
腹痛の分類
腹痛は、痛みの部位や持続時間、発症の仕方(急激か緩徐か)によって分類して考えます。例えば、心窩部痛の原因には胃炎、消化性潰瘍、胆石症、急性膵炎、心疾患などがあり、右上腹部痛の原因には胆嚢炎や肝炎、胆石症などがあります。
腹痛の原因
腹痛の原因は、器質的疾患と機能的疾患に大別されます。
器質的疾患には、虫垂炎、消化性潰瘍、消化管穿孔、腸閉塞、虚血性腸炎、大腸憩室炎、胆嚢炎、胆管炎、急性膵炎などがあります。これらは明らかな臓器の異常に基づく病態です。
一方、機能的疾患には、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群などが含まれます。これらは検査では明確な異常がみられないものの、症状が持続する病態です。
過去の報告によると、腹痛の原因の大半は診断が不明であることが知られています。
診断不明(機能性腹痛含む):12.7%~63.8%
胃腸炎(gastroenteritis):7.2%~18.7%
過敏性腸症候群(IBS):2.6%~13.2%
泌尿器疾患(尿路感染症など):5.3%
胃炎(gastritis):5.2%
さらに、腹痛患者のうち、多くは自然に軽快するが、ある研究では、非特異的腹痛患者の1年後の死亡率が対照群の約2倍(3.4% vs. 1.8%)であると報告されました。すなわち、腹痛のない人の病院受診者に対して、腹痛で受診した方の1年後の死亡率が約2倍あることになります。
そのため、原因を明らかにして治療につなげるためには、以下の検査を組み合わせて診断することが大切です。
腹痛の診断・検査
診断にあたっては、まず生命に関わるような緊急性の高い病態を優先して除外し、段階的に原因を絞り込んでいきます。問診では、痛みの性質(刺すような痛み、鈍い痛みなど)、持続時間、誘発因子、緩和因子、既往歴などを詳細に聴取します。身体診察では、バイタルサイン(体温、脈拍、血圧、呼吸数)を確認し、腹部の視診・聴診・打診・触診を行います。
必要に応じて、血液検査(炎症反応、肝胆道系酵素、アミラーゼ・リパーゼ、腎機能、電解質異常など)、尿検査(感染症や結石の評価)、女性患者では妊娠検査を行います。
さらに、腹部超音波検査(胆石症、胆嚢炎、尿路結石などの評価に有用)、上部消化管内視鏡検査(胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの診断に有用)、腹部造影CT検査(消化管穿孔、腸閉塞、腸間膜虚血、急性虫垂炎などの評価に有用)を適宜選択します。妊娠中など放射線被曝を避けたい場合にはMRI検査を考慮します。
以上の手順を踏み、腹痛患者に対する的確な診断と迅速な治療を目指します。
参考文献
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- Masuy I, Van Oudenhove L, Tack J. Review article: treatment options for functional dyspepsia. Aliment Pharmacol Ther 2019;49:1134–1172.
注意:本文の内容には細心の注意を払っておりますが、あくまで参考情報としてご活用ください。本内容をきっかけとした自己判断等により生じた体調悪化などの不利益の責任を負うものではありません。必ず、主治医・かかりつけ医等、医師の診察により自身の病状を判断いただき、適切な検査・治療方針を決定してください。