胸やけ

胸やけとは

最終更新日:2025年4月29日

胸やけとは、胸骨の後方に感じる焼けるような不快感や痛みを指します。多くの場合、胃酸が食道へ逆流することにより、食道粘膜が刺激されて発症します。これは胃食道逆流症(GERD)の典型的な症状のひとつとされていますが、GERDが認められない場合にも出現することがあります。たとえば、機能性胸やけ(Functional Heartburn)と呼ばれる疾患では、胃酸逆流とは関係なく同様の症状が出現することがあります。国際的な診断基準であるRome IV基準では、こうした機能性疾患においては症状が週に2回以上、3か月以上続くときは、器質的疾患の除外が必要とされています。
日本人においては、胸やけを主訴とする患者の多くが非びらん性逆流症(NERD)と診断されることが多く、内視鏡所見が陰性であっても逆流症状を訴える例が少なくありません。実際、日本におけるGERDの有病率は約10%とされ、GERD症状を有する患者のうち過半数がNERDであるというデータがあります。また、逆流症状の有訴者率は17~18%と高く、びらん性変化を伴わないにもかかわらず日常生活に支障をきたす例が多いことが報告されています。

このような背景には、日本人の胃酸分泌能の変化が関係していると考えられています。1970年代から1990年代にかけて、日本人における胃酸分泌能は徐々に増加し、H. pylori未感染者が増加したことも関連してGERDの有病率が上昇しました。その後、ここ20年ほどは胃酸分泌能の変化は少なくなり、現在は安定傾向にあるとされます。また、除菌療法の普及によりH. pylori感染率が低下したことも、GERD患者の背景因子として大切です。

分類

胸やけを引き起こす疾患は、大きく2つに分類されます。ひとつは胃酸の逆流に起因する胃食道逆流症(GERD)であり、もうひとつは逆流と関係のない機能性疾患です。
GERDには、内視鏡で食道粘膜にびらんを認めるびらん性逆流症(ERD)、びらんを認めない非びらん性逆流症(NERD)、およびBarrett食道が含まれます。NERDは、内視鏡では異常がなくても24時間pHモニタリングにて酸曝露時間(AET)が異常であることで診断されます。

一方、機能性疾患には、Reflux Hypersensitivity(生理的な逆流に対して過敏な反応を示す)と機能性胸やけ(酸曝露もなく、逆流との時間的関連もない)が含まれます。これらの疾患はRome IV分類により明確に定義されており、特に機能性胸やけでは心理的背景や中枢性感受性の関与も示唆されています。

原因とされる生活習慣・食生活、病態、および鑑別すべき疾患

胸やけの原因として、食事や生活習慣が大きく影響します。高脂肪食や過食、就寝前の飲食、喫煙、アルコール摂取は、下部食道括約筋(LES)の緩みを誘発し、逆流を悪化させるとされています。特に妊娠中は、プロゲステロンの作用によりLESが弛緩しやすくなり、妊娠進行に伴う腹圧の増加も加わって、胸やけの頻度が高くなる傾向があります。

鑑別すべき疾患としては、GERDの各亜型に加えて、好酸球性食道炎、食道がん、アカラシアなどの運動異常症、また機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群(IBS)との併存も考慮すべきです。

さらに、肝胆道系疾患や甲状腺疾患も胸やけの鑑別に含めるべき重要な疾患群です。肝胆道系疾患(胆石症、胆嚢炎など)では、胆汁が胃へ逆流し、それが非酸性のまま食道へ到達することで胸やけ様の症状を引き起こすことがあり、この胆汁性逆流は内視鏡でもびらんを形成しうるため、GERDとの区別が必要です。
また、甲状腺機能異常(特に甲状腺機能亢進症)では、消化管運動の変化によりLES圧が低下し、胃内容物の逆流を引き起こすことがあります。甲状腺機能低下症でも胃排出遅延などの機序で同様の症状を生じる場合があります。
このため、特に妊娠中や不明熱・体重減少などを伴う症例では、甲状腺機能検査や肝胆道系の精査も必要となることがあります。

診断のための検査方法

診断の第一歩は、症状の詳細な聴取と病歴の確認です。症状の出現時期、頻度、食事との関連、体位変化での増悪などを把握することが重要です。問診票や症状スコアを活用することで、症状の客観化と経時的評価が可能となります。
内視鏡検査(EGD)は、食道のびらん、狭窄、Barrett食道、好酸球性食道炎などの器質的疾患を除外するために行われます。癌をはじめとした悪性腫瘍の否定は継続的に診療をしていくうえで非常に大切です。

pHモニタリング(24時間pHあるいはpH-インピーダンス検査)は、食道内の酸曝露時間を定量化し、NERDかどうかを判断するために必要です。食道マノメトリー(HRM)は、アカラシアなどの運動異常症の除外や、pHプローブの正確な配置のために用いられます。

参考文献

  1. Fass R, Zerbib F, Gyawali CP. AGA clinical practice update on functional heartburn: Expert review. Gastroenterology 2020;158:2286–2293.
  2. Patel D, Fass R, Vaezi M. Untangling nonerosive reflux disease from functional heartburn. Clin Gastroenterol Hepatol 2021;19:1314–1326.
  3. Dunbar K, Yadlapati R, Konda V. Heartburn, nausea, and vomiting during pregnancy. Am J Gastroenterol 2022;117:10–15.
  4. 日本消化器病学会. 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021 (改訂第3版). 南江堂; 2021.

注意:本文の内容には細心の注意を払っておりますが、あくまで参考情報としてご活用ください。本内容をきっかけとした自己判断等により生じた体調悪化などの不利益の責任を負うものではありません。必ず、主治医・かかりつけ医等、医師の診察により自身の病状を判断いただき、適切な検査・治療方針を決定してください。

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三井 啓吾
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