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逆流性食道炎

逆流性食道炎(胃食道逆流症:GERD)とは

逆流性食道炎

逆流性食道炎(GERD)は、胃酸や胃内容物が食道に逆流することにより、食道の粘膜に炎症を引き起こす病気です。近年、生活習慣の変化やピロリ菌感染率の低下に伴い、世界的にGERDの罹患率は増加傾向にあります。特に、食生活の欧米化が進んでいる日本でも、その罹患率が10%程度に達しているとの報告があります。GERDは中高年に多い疾患ですが、若年層にもみられることがあり、男女ともに発症しますが、肥満や喫煙、妊娠などがリスク要因となるため、これらの因子を持つ人では発症リスクが高くなります。

逆流性食道炎の症状

GERDの典型的な症状としては、胸焼け、呑酸(酸っぱいものが喉に上がってくる感覚)、胸痛があります。これらの症状は特に食後や横になるときに強くなる傾向があります。また、非典型的な症状としては、咳、喘鳴、喉の違和感、声のかすれ、慢性的な咳、嚥下困難などがあり、これらは気道や咽頭への胃酸の影響によって引き起こされると考えられています。非典型的な症状は、GERDと診断されにくく、治療が遅れる原因となることがあります。

逆流性食道炎は、症状の程度や発生頻度によって個人差が大きい疾患です。軽度の症状では時折感じる程度ですが、重症例では日常生活に大きな支障をきたすこともあります。特に長期間放置すると、食道粘膜にびらんや潰瘍が生じ、最終的にはバレット食道という前癌病変に発展するリスクもあります。

逆流性食道炎の原因

GERDの主な原因は、食道と胃の間にある下部食道括約筋(LES)の機能低下です。通常、LESは食物が胃に到達した後、逆流を防ぐために閉じられますが、GERDの患者ではこの筋肉が弱くなり、胃酸が食道に逆流しやすくなります。その他の要因として、胃酸の過剰分泌、肥満、喫煙、過度なアルコール摂取、食事内容(高脂肪食や辛い食べ物)、ストレス、加齢、妊娠などが挙げられます。

また、ヘルニアの一種である食道裂孔ヘルニアもGERDのリスクを高める要因です。これは、胃の一部が食道を通じて胸部に押し上げられる状態で、これによりLESが正常に機能しなくなることがあります。

逆流性食道炎の診断

GERDの診断には、まず患者の症状や病歴を基にした臨床診断が行われます。典型的な胸焼けや呑酸などの症状が見られる場合、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を一定期間試験的に使用し、症状の改善が見られれば診断を確定することが多いです。しかし、重篤な症状や長期間持続する場合、または非典型的な症状がある場合には、内視鏡検査が推奨されます。

内視鏡検査は、食道の状態を直接確認し、炎症やびらん、潰瘍、バレット食道の有無を評価する最も重要な診断方法です。特に、重症のびらん性食道炎(ロサンゼルス分類CまたはD)では内視鏡による診断が重要であり、これに基づいて治療方針が決まります。また、内視鏡では異常が見られないが症状が持続する場合には、食道内pHモニタリングや食道運動検査が行われることもあります。これにより、胃酸逆流の程度や食道の機能障害を詳細に評価することができます。

逆流性食道炎の治療

GERDの治療には、生活習慣の改善、薬物療法、侵襲的治療の3つの柱があります。

1. 生活習慣の改善

生活習慣の改善は、GERDの管理において非常に重要です。まず、肥満は逆流のリスクを高めるため、体重管理が推奨されます。また、食事後すぐに横になることを避け、就寝の少なくとも3時間前までに食事を終えることが望ましいです。さらに、脂肪分の多い食事やアルコール、カフェイン、辛い食べ物などの「トリガー食品」は、胃酸分泌を促進し症状を悪化させる可能性があるため、避けるべきです。

喫煙もまた、LESの機能を低下させるため、禁煙が強く推奨されます。また、寝る際には頭を高くすることで、夜間の逆流を防ぐことができます。

2. 薬物療法

薬物療法の中心は、胃酸の分泌を抑えることです。最も効果的な薬剤はプロトンポンプ阻害薬(PPI)であり、胃酸分泌を強力に抑制することで、食道の炎症を改善します。PPIは短期間の使用で症状の緩和と粘膜の治癒を促進しますが、症状が再発しやすいため、長期的な使用が必要な場合があります。長期間の使用には骨粗鬆症やビタミン・ミネラルの吸収障害などの副作用が報告されているため、医師と相談しながら使用することが重要です。

また、新しい薬剤としてカリウム競合性酸ブロッカー(P-CAB)が登場しており、これも胃酸分泌を抑える効果があります。P-CABはPPIに比べて作用の発現が速く、食事に関係なく服用できる利点がありますが、現時点では高価であり、使用には制約がある場合があります。

3. 侵襲的治療

薬物療法が効果を示さない場合や、長期間の薬物療法が不適当な場合には、手術や内視鏡的治療が検討されることがあります。最も一般的な手術は、胃と食道の間にあるLESを強化する「腹腔鏡下噴門形成術(Nissen手術)」です。この手術は、高い成功率を持ち、特に薬物療法が無効な患者に有効です。

また、最近では内視鏡を用いた低侵襲な治療法も開発されており、胃酸逆流の症状を軽減するための新たな選択肢となっています。例えば、内視鏡的に食道と胃の接合部を締める手術や、胃酸の逆流を防ぐデバイスを設置する手技が一部で実施されています。

逆流性食道炎の予後

GERDは、適切な治療を受ければ多くの患者が症状を管理できる病気です。しかし、治療を怠ると、長期間の胃酸暴露によって食道がダメージを受け、食道狭窄や出血、バレット食道などの合併症を引き起こすリスクがあります。バレット食道は食道がんのリスクを高める前癌状態であり、特に内視鏡的フォローアップが必要です。

したがって、定期的な内視鏡検査による経過観察と、症状に応じた治療を続けることが重要です。軽症の患者では、生活習慣の改善と薬物療法で十分な改善が期待できますが、重症例では手術も含めた包括的な治療が必要になることがあります。

逆流性食道炎は生活習慣と深く関連しているため、予防のためには適切な食事や体重管理、禁煙などが推奨されます。特にリスクの高い患者は、定期的に医師の診察を受け、適切な治療とフォローアップを行うことが求められます。

参考文献

  1. Iwakiri K, Fujiwara Y, Manabe N, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for gastroesophageal reflux disease 2021. J Gastroenterol 2022;57:267–285.
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  3. Patel A, Laine L, Moayyedi P, et al. AGA clinical practice update on integrating potassium-competitive acid blockers into clinical practice: Expert review. Gastroenterology 2024. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39269391/.

注意:本文の内容には細心の注意を払っておりますが、あくまで参考情報としてご活用ください。本内容をきっかけとした自己判断等により生じた体調悪化などの不利益の責任を負うものではありません。必ず、主治医・かかりつけ医等、医師の診察により自身の病状を判断いただき、適切な検査・治療方針を決定してください。

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三井 啓吾
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